漢方での治療について
Chinese herbal therapy
生活習慣病
肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧症の複合病態であるメタボリックシンドロームは、集積して存在すると生活習慣病としての危険性が高まり、ときに重大な合併症を引き起こし、死に至る場合もあります。一方で、メタボリックシンドロームは可逆性という一面も有しています。判定基準により判定し、早期から未病の段階で医療介入ができれば、動脈硬化性疾患に発展する危険性は大幅に減少する可能性があります。メタボリックシンドロームへの対処は、食事療法、運動療法、ストレスの軽減を目的とした生活習慣の改善が基本になりますが、この段階での漢方薬の使用は肥満の改善を目的とします。次いで循環障害の改善を目的とした漢方薬も必要となります。
消化器症状
漢方では消化器を脾胃(ひい)と称しますが、この脾胃の機能低下は以下の4つに分けられ、それぞれのタイプに応じて漢方薬が使用されます。
- ①消化管の蠕動運動の低下によるもので、食欲低下、下痢、顔面蒼白、声に力がない、倦怠感、脈に力がないなどの症状が現れます。
- ②消化管の蠕動運動の低下と冷えによるもので、①の症状に加えて、冷感が著しく、温かい飲物を好むようになり、ときに腹痛が出現します。
- ③消化管の蠕動運動の低下と冷えと熱が関係しているもので、熱による症状として、胸やけ、口渇、口臭、吐き気、乾燥などが認められます。その一方、寒による症状として冷感、腹部のグル音、下痢などの症状が認められます。熱と寒の両方の症状が同等に認められるのが特徴といえます。
- ④消化不良によるもので、食欲不振、みぞおちの不快感、膨満感、吐き気、げっぷ、呑酸、全身倦怠感などの症状が認められます。
耳鳴り・めまい
突然、周囲がぐるぐる回り、吐き気や耳鳴りを伴う回転性のめまいや急に立ち上がったり、ある方向を振り向いたりしたときにクラッとするめまいには、それぞれの症状に適応する漢方があります。受診の際にはどのような症状なのかを詳しくお伝えください。
更年期障害
更年期障害は、あきらかな原因が見当たらないのに「あちらこちら具合が悪い」という症状の訴えが多く、のぼせや動悸、発汗、めまいなど自律神経失調症と密接な関係があるといわれています。現代の生理学では、直接的要因を女性ホルモンの減少として、ホルモン補充療法が行われます。一方、漢方治療では、ホルモンの減少は自然の摂理と考え、この期間の症状を改善するために症状に応じて漢方薬で対処します。
不眠症
不眠症の薬物療法で主流になっている睡眠薬(ベンゾジアゼピン系)は即効性があり、確実な効果が期待できます。一方、睡眠薬の副作用や依存性に不安を持たれている方や、服用に対して罪の意識を持つ方さえいらっしゃいます。こうした背景から、睡眠薬の減量・離脱を目的に漢方薬を併用するケースや、漢方薬のみを希望する方が徐々に増えています。近年、不眠に対する漢方治療の必要性が高まっています。
にきび
皮脂分泌が盛んな毛穴にアクネ杆菌(かんきん)が繁殖して化膿する病態がにきびです。現代医学では外用薬による治療が主体となりますが、重症の場合は殺菌を目的として抗生物質が使われることもあります。漢方治療では、にきびができにくいように体質を改善させることを目的としています。
泌尿器障害
尿路の不定愁訴は頻尿、尿漏れ、残尿感、排尿痛、下腹部痛など多彩な症状があるにもかかわらず、器質的な障害が認められません。このような際、西洋医学では精神安定剤などが用いられますが、症状の改善が得られない場合、漢方治療が適します。漢方医学では尿路の不定愁訴を一種の機能障害と解釈して、全身症状も考慮しながら適応する漢方薬を選択します。
フレイル
超高齢化社会が進む中、後期高齢者の病態としてフレイルやその原因となるサルコペニア(筋肉量が減少する病態)が注目されています。フレイルは「虚弱」などを意味する「Frailty」が語源であり、足腰の筋力が低下し、疲れやすい、やる気が出ない、食欲がないなどの症状が見られる状態を言います。漢方にはこれらの症状を総合的に改善させるものもあります。